「モジャ!」 season2 第八回
スペースオディティ
「え?あなたって、探偵だったの?」
「そうだよ」
「探偵って、何する人?」
「えっと、何すんだろうね」
「こっちが聞いてるのよ。じゃあ、今までどんな事件を解決してきたの?」
「それがね、まだ何もないんだ」
「は?それで探偵って言っちゃってんの?」
「権力は、行使しないことでその権力が発揮される」
「何それ?」
「いや、なんか、どっかで読んだ言葉。昔の政治家だったかな」
「一体、それが探偵と何の関係があるのよ」
「いや、探偵がさ、事件を解決しちゃったら、探偵っぽくないじゃん」
「いや、それが探偵でしょ」
「うーん、俺が思う探偵はそうじゃないんだよね。それができればね、私立探偵なんてやってないですよ、ちゃんと就職しますよ、っていうね」
「えー、それって、言い訳じゃない?ていうかさ、まぁ、百歩譲って、白モジャさんが探偵であるってのは認めるとしてもさ、なんで、探偵が、私を剥いて、食べてしまったら、探偵ではなくなっちゃうの?」
「それはさ、やっぱり、さっきの話とちょっと近いんだけどさ、剥いたり、食べたりすることって、世界に参加するってことだと思うんだ。俺はそれに興味がない。っていうか、そうやって参加している人たちを、遠くから見ているのが探偵の仕事だから」
「見ているだけでいいの?事件を解決しなくても」
「事件はね、本当は本人にしか解決できないんだよ。いや、もっと正確に言えば、本人にだって解決できないものなんだよ」
「解決できないことを、なぜするの?」
「解決できないからするんだよ。今日も解決できなかったってことを感じるために」
「それじゃ、虚しくない?」
「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている意味はない」
「それ、フィリップ・マーロウの言葉じゃない」
「あ、バレた?」
「あ、赤くなってる」
「アイラブユーとは、お互いが向かうことではなく、同じ月を眺めることだ。これは確か
夏目漱石。多分だけど」
「…もしかして、私のこと口説いてる?」
「いや、だから俺はね、剥いたり、食べたりするのは、どうでもいいんだよ。そんな風にさ、目的を目的化して生きてたらさ、生きていくのがヤンなっちゃうんだよ。あ、この後半のところは確か、ソナチネのセリフだったと思う」
「さっきから何よ、それ?引用ばっかり。一体、本当のあなたはどこにいるの?」
「ここにいるよ」と言って、俺はラ・フランスを見た。ラ・フランスも俺を見た。黄色い瞳の中に宇宙があった。俺は、その宇宙に吸い込まれるように、彼女の頬に触れた。(続)
ロケ地:BAR BRORA(長野県松本市)
テキスト:ミフキ・アバーチ
撮影:サマーカーター・トゥーイ
出演:モジャ、和三盆、カリメロ