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「モジャ!」 第五回 問いかけ

 「明日も見てくれるかな?」タモリが言った。「笑っていいとも!」の最終回で。
 明日なんてもう来ないのに。そして誰もいなくなった。問いかけだけをアルタに残して。

 女は、俺に何も依頼しなかった。つまり、出会いそれ自体が依頼だった。勿論、俺は問いかけた。「果たして、何をすればいいのか」と。 すると女は答えた。「それ、私に聞く?」と。なぜか、ちょっと逆ギレ気味の口調で。女は、問いかけに問いかけを返すことで自己を正当化し、男は黙ってじっと手を見る。

「答えるだけなら、Siriでもできるわ。私は、あなたに問いかけ自体を見つけ出して欲しいの。確かに存在するけれど、私自身が失ってしまった本質的な問いかけを」
 女はフランツ・カフカの小説のような言葉を、フランツ・フェルディナンドのリズムで奏でた。  

 そして俺は今、咳しても一人。神保町界隈をあてもなく漂っている。女からの問いかけが自問自答となって、大坂なおみ的ラリーを続けている。   
 古本屋街に差しかかる。一冊百円と書かれた本棚を覗き込むと、カバーの外れた文庫本が、乃木坂48の真ん中でつくり笑いを浮かべる娘のように俺の目に飛び込んでくる。 『ソクラテスの弁明 プラトン』。それは、『幸せになる100か条 江原啓之』と『生きているのはひまつぶし 深沢七郎』という真逆の人生観にサンドイッチされていた。
 ソクラテスは、自ら答えを出すのではなく、他者との問答を続けることでその哲学を真理へと昇華させていったという。「…ちょっと何言ってるかわかんない」耳元で富澤たけしのくぐもった声がする。ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか。みんな悩んで大きくなった。  

 気づけば、水道橋駅にいた。疲労困憊の俺は、無性に酒が飲みたくなっている。だが、そうは問屋が卸さない。お天道様の角度が許さない。ノンアルコールビールは酒じゃない。  

「一冊、どうすか?」と声をかけられ振り返ると、ビッグ・イシューを手にしたホームレスが、ウディ・ガスリーのような土埃の美しさを湛えた顔で立っている。
「…ユリイカ!」無音の稲妻が俺の脳天に直下してソクラテスが憑依する。モジャラテスとなった俺は、今こそ問いかけの時だと悟る。  
 「…ほしいものがほしいの」俺は、脳裏に浮かんだバブル時代のキャッチコピーを、当てずっぽうに絶叫する。もはやそれは、問いかけではなくただの独白に過ぎなかったが、スチャダラ風の語尾上げで何とか疑問形に着地する。よくなくなくなくなくなくない?  

 問答は、言葉で始まり発見で終わる。「こんなんでましたけど〜」ホームレスが、往年の白蛇占い師を彷彿とさせる死に物狂いの明るさで、ロゴ入り赤キャップを脱帽する。 …露わになったのは、今年5度目の年男を迎えた俺をも驚愕させる新世界。ニスを塗ったような禿頭から、なんとウィスキーボンボンが生えていた。まるで、ユニコーンの角だ。


STORY:ミフキ・アバーチ  PHOTOGRAPHY:サマーカーター・トゥーイ  STARRING:ウーコ・カオターカ

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